
オーダーメイド12
近年、小さな作品のみが売れていくなか珍しく「官女」をつけた作品が欲しいと言うお客様がご来店されました。お話を聞くと親王飾りだけでは寂しいとのことでした。私は咄嗟に「飾るスペースは大丈夫ですか?」「最低でも幅80cmほどは使いますよ」聞くと「大丈夫です」のこと。近年小さいものばかり売っていると、間口を大きく使うものを売るのに躊躇してしまいます。そもそもお雛様は一年で飾り終えるものではなく、節句の季節になれば毎年出して、飾り、祀ってもらうものです。その方が生きている間は、その子の身代わり、つまりは人形(ヒトガタ)のお守りなので大切に祀ってもらいたいもの。面倒になって飾らなくなっては意味がないので、ご購入の際は必ず、「苦にならないサイズをお選び下さい」と一言言ってはおりますが、ただ今の時代、共働きや時間に余裕がないのも事実。
さて、お客様の組み合わせはすぐには決まったものの、お雛様の衣装がなかなか決まらず、最終的には古典的な色目として男雛は黒の雲鶴文様。女雛は赤系でオーダーメイドで制作することになりました。女雛の唐衣、上着は同じ柄の色違いで「松喰鶴丸」。そして唐衣の裏は赤。上着の裏を同系の薄緑で組み合わせました。この「松喰鶴」は文字通り、松の小枝をくわえた鶴が飛んでいる様子をデザイン化したものです。「花喰鳥」が日本に伝わり、平安時代以降に和様化されたものが「松喰鶴」です。鶴は古代中国の「神仙思想」において霊長とされていました。そして、若松は延命長寿の瑞木として考えられてきました。そのため、これから伸びゆく清々しい生命力を宿した「若松の小枝」と霊長の「鶴」を組み合わせ、二重におめでたい文様です。昭和・令和の即位式の際に美智子様や雅子様の唐衣にも文様のデザインが違いますが「松喰鶴」が使用されております。
それにしても今年は官女付きにしたいお客様がこの方以外にも来店され官女フィーバーになってしまい、在庫分が終わってしまい制作する羽目に。普段売れないものが売れると材料を揃えるのが大変です。



参考:間口85×奥行き65×高さ55(cm)