
オーダーメイド9
昨年度お客様からのご希望で、静岡伝統的工芸品の「天神様」の制作依頼がりました。天神人形は以前も京風タイプを制作していますが、今回は静岡固有のスタイルのお雛様になります。
静岡の天神人形の特徴は、まずは大きさ。今回制作した作品は昔なら小さなタイプですが高さが36cm(冠まで)。幅が47cmほどあります。そしてさらに三段の親王台に乗りますので、とにかく大きく感じます。このサイズの天神人形は先に述べた通り、小型のもので四番というサイズです。ここから三番、二番、一番、特一、特大、番外と順を追って大きくなってきます。番外はひと抱えするほどの大きさです。ですが住宅事情や、職人不足等もあり今では四番サイズのみ製作しています。次なる特徴は大きく跳ね上がった両袖です。これは衣装着天神のスタイルが定まった大正頃から袖が跳ね上がっておりました。祖父曰く、袖がピンと跳ね上がっているのは男の子の強さを表現しているのこと。ここまで袖が上がった人形も珍しいかと思います。
さて、静岡の天神人形は一般的に生地は金欄の龍や毘沙門亀甲柄などを使用しますが、今回はお客様のご希望で金駒刺繍梅鉢紋で制作しました。京風タイプでは制作していますが、このサイズ、このスタイルで制作するのは初めでした。なぜ天神様に梅鉢紋かというと天神=菅原道眞公だからです。菅原道眞公は幼少期より梅を愛し、歌も読んだりとしており、梅鉢紋が天神様に使われるのです。
さて逆算しながら両袖の位置に梅鉢紋がくる様に寸法をだし、ヒゲで隠れてしまいますが懐にも寸法をだし、型を作り刺繍を施してもらいましたが、近年刺繍をしてくれる業者も高齢化で少なくなってきていますのでいつまで出来るのかわかりません。他にもお客様のご希望で、色袖と呼ばれるところと平緒は陰陽五行の五色でまとめ、黒の衣装でも少し華やかにはなっております。
細かな部品も全て特注でなければ揃わなくなってきており、手は京都の手足職人でもある澤野氏に依頼し大型のサイズで木彫りで制作。お雛様では珍しい褐色もつけてもらいました。お顔は当店のこのサイズは最後の在庫でもあった桐塑(とうそ)製のお顔です。桐塑とは桐をおがくず状に細くしたものとでん粉糊と混ぜ、粘土状にしたものを型に入れ制作する技法です。現在ではほぼ石膏頭の世の中、大変貴重なものを使用しました。
部品がないない尽くしの世の中で何とか完成した特別仕立ての天神人形。今後作る機会あった場合、果たして制作できるのでしょうか?
そして昨年度はこのサイズより大型の天神人形の依頼もあったのでこちらもまた紹介していきたいと思います。

高さが36cm(冠まで)もある大型の天神人形です。

金駒刺繍梅鉢紋。地紋は黒地雲立涌を使用。お客様のご希望で色袖は陰陽五行の五色(青・黄・赤・白・黒(紫))で表現。なお「青」とは昔の青ことであり青=緑になります。

ヒゲで隠れてしまいますが、懐にも金駒刺繍梅鉢紋。手は京都の手足師 澤野正作の手彫りの特注品。

平緒の部分も色袖と同じ陰陽五行の五色で表現。縁の部分は手染めの金紙で制作してあります。

桐塑製の本頭のお顔。